出る杭は打たれる ― 米中対立の心理学(2)

 

 佐橋亮教授は、中公新書「米中対立 アメリカの戦略転換と分断される世界」のなかで、トランプ政権になってからのアメリカの中国に対するみかたについて、各種の報告書を引きながら、                                         

 「インド太平洋におけるパワーバランスが崩れつつあり、また中国の影響力の増大が世界各地域でみられることに警鐘を鳴らした」
 「科学技術においても、中国がアメリカの先端分野で追いつき、一部追い越しているとの現実に、アメリカの為政者は動揺した」
 「中国が世界経済やアジア地域のバランスを変えるだけでなく、国際秩序を支えるルールや規範に影響を与え、世界各国の権威主義化さえ促進しているとの焦りがアメリカで深まった」
など「警鐘」「動揺」「焦り」を報告している(131p)。
追い抜かれる者」の心理である。 

 高校生の勉学競争における「追い抜かれる者」の心理は、世の中にさざ波一つ立てることはなかった。私とA君の「暗闘」も大学受験が済んでそれぞれの道を歩み始めたころには、すっかりおさまり、友情をとりもどしていた。

 国と国との関係ではそうはいかない。対立は対決となり、衝突、戦争へと発展しかねない。「追い抜かれる者」は、こっそり「わら人形」に五寸釘を打ち込むことではすまないのだ。

 「成金」と「老舗」の競争が面白い例といえるかもしれない。
 小さな商売人であったCは、貧しいながらもコツコツと血のにじむ努力をし、爪に火をともすように倹約し無駄をはぶき、一代で富を築いていった。いまや商売上の勢いは老舗Dにまけていない。おおらかに穏やかな商売をつづけ、弱小企業からも頼りにされていたDは焦る。わが傘下にあった業者がみんなCの方になびこうとしているではないか。Dの番頭らは成金Cの商売のやり口の悪評を取り集め、その「汚さ」「ケチくささ」「意地悪さ」を周辺にまき散らし、Cの評判を落としてDの地位を回復しようとする・・・。

 「南シナ海」「香港問題」「ウィグル問題」「台湾問題」「サイバー攻撃」「国内の人権弾圧」「習近平の独裁」などなど、さまざまな中国の悪評は、主にアメリカ筋から世界に流されたと見て間違いないだろう。いまはそれら悪評の真偽やその程度には触れない。このブログにおける大事な検討課題である、じっくり調べ考えていきたい。

 「成金」を陥れるための「老舗」側の悪評吹聴にはでっち上げや誇張があり得たように、アメリカの中国批判のなかにも、ためにする「誇張」があるかもしれない、正当に評価すべき中国の「努力」面を無視しているかもしれない・・・。(つづく

(昨日の「五寸釘」のところを読んだカミさんが「本当にこんなことしたの?」とま顔できいてきました。「冗談にきまっているじゃない!」。それにしても、描写がリアルすぎましたかね。)

 

 

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