南シナ海・領有権争いと米中パワー対立(6)

 仲裁裁判について

国連海洋法条約にもとづく仲裁裁判所は2016年に、フィリピンが中国を相手に提訴した南シナ海紛争事件について、仲裁判断をくだした。

 その中心部分の結論だけいえば「ス諸島には200海里の排他的経済水域や大陸棚を持つ島は一つもなく、せいぜい20海里の領海しかもたない岩が存在するだけだ。・・・大陸棚を持つ国(フィリピン)がその上にある岩を領有する」とした。

排他的経済水域(EEZ)における鉱物・水産資源に狙いがあるからこそ、関係諸国はちっぽけな島しょの実効支配に懸命となってきたのだ。仲裁判断は中国に大きな敗北をもたらしたが、ベトナム、マレーシアも失望させる内容を含んでいた。中国の占拠した島しょの一定部分をフィリピンの領有とするなどフィリピンの一人勝ちであった。

 中国は仲裁裁定の相手となる「参加」をしていないのに、フィリピン勝利の結論を押し付けられるのを拒否している。その無効を主張する法律論もあながち無茶とは思えない。また今回の提訴は、島しょの領有権を正面から審理する裁判ではなく、島しょの形状・位置(島か岩か低潮高地か)などに関する海洋法の解釈を求める仲裁裁判である。いわば「からめ手」の裁判で勝利を得ようとしたフィリピンの姿勢を問題としている。根本には、フィリピンが戦後南シナ海の領有を主張し始めたころは、周辺の国から冷笑されるほどに根拠の薄弱なものであったのに、その後、領有根拠を変えて地勢的有利さにしぼって主張するようになった、その変わり身も納得していないのだろう。

ただ、中国は海洋法を批准している国家なので、仲裁裁判の提訴相手となった以上「参加」しなくてもその判断に従うべきであろう。少なくともフィリピンとの間では、この結論を受け入れて二国間交渉にのぞむのが国際ルールを遵守する大人の態度だと思われる。交渉次第ではフィリピン側に主権があるとされた島しょについても、これを租借して利用すること(たとえ軍事基地であろうと)はできるのであるから(ドゥテルテ比大統領が仲裁判断を「紙切れにすぎない」と述べたのは交渉こそ本番との趣旨であろう)。

仲裁裁判の当事者となっていないベトナムやマレーシアは、この裁定を受け入れなければならない義務はなく、したがって、中国はこれらの国とは自由に交渉することはできる。ただ、海洋法批准国である以上、仲裁裁判所の判断はそれなりに尊重した上で解決の道を見出す努力はしなければなるまい。

いずれにせよ、仲裁裁判は、現在進行しているDOCなどの協議に相当な影響をあたえたことは間違いないが、直ちにその結論を左右するものではない。ましてや中国に南シナ海から手を引くことを命じる判断でもない。そのことを頭において今後の中国の態度を見守るべきだと思う。(比較的わかりやすい解説は「南シナ海紛争に関する仲裁裁判所裁定」稲本守 インターネットで検索閲覧できます)(  6/6)

読んでいただきありがとうございました。ご批判を得てなお考えてまいります。次回は少し向きを変えて「戦争前夜の世論」のテーマで。また2週間ほど後に

 

 

コメント

  1. 興味深く読ませてもらいました。
    今後の執筆も楽しみにしております。

    返信削除

コメントを投稿

このブログの人気の投稿

中国に関する冷静な観察 良心的ジャーナリストから学ぶ

米軍と自衛隊の「指揮系統の統合強化」の危険性について

あらためて、なぜ(勉強ノート)にとりくむのか・・・そして清代の儒者・戴震(たいしん)について