南シナ海・領有権争いと米中パワー対立(5) 

中国が国内で中距離ミサイルを増やしたり空母や潜水艦を建造することに対して、国力の増大にみあう通常の防衛力向上と言われれば、アメリカとしてもこれを非難する理由をみつけにくい。だが、中国の南シナ海進出については、弱小国ベトナム、フィリピンから武力で「島々を奪って」基地建設したと喧伝できるだけに、中国の覇権姿勢イメージを醸成するのに格好なものであった。

アメリカにしてみれば、中国の南シナ海での滑走路建設は、アメリカが作りあげた中国封じ込めラインの一角に「ほころび」を生じる事態であることはまちがいない。自らの優位のもとでのパワーバランスがわずかでも崩れようものなら「焦り」「動揺」するのがアメリカの常である。佐橋教授はこのようなアメリカと中国の関係について、中国政府が「既存の国際統治メカニズムから巧みにすり抜け、そのような行為を抑止したり、対処しようとしたりするアメリカ政府の試みを回避することで、アメリカの利益を脅かすような政策をとり始めている」との専門家の「分析」を紹介している(「米中対立」117p)。

南シナ海問題は、アメリカが弱小国ベトナム、フィリピンなどのために一肌脱いでいるのではなく、自国の利益のために中国を非難しつつ対抗しようとしているとみるべきではないだろうか。今やASEAN諸国も東南アジアでの米中の対立の先鋭化を迷惑がっている。

 米中対立の領有権争いにあたえる影響

中国による2014年以降の3本の滑走路築造にもかかわらず、ASEAN諸国と中国との間のDOCを具体化する行動規範に向けての話し合いは、難航しつつも辛抱強く継続されている。ASEAN諸国は滑走路が主にアメリカに向けられた軍事施設であって周辺国を威嚇しようとしたものではないことを理解しているのだ。威嚇されながら話し合いを続けるほどASEANはやわではない。

  ASEAN諸国はまた中国との友好善隣関係が対立・衝突よりも重要だと認識している。中国も自国の利益のために近隣ASEAN諸国との信頼関係は欠かせず、この関係が損なわれれば尊敬される大国化への道は閉ざされることを理解していると思われる。(つづく 5/6  明日は「仲裁裁判」を考え、この項をおしまいとしたい)。 

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