南シナ海・領有権争いと米中パワー対立(3)
8 ス諸島の島しょ占拠合戦は1990年代後半ころを期に、各占拠の現状を維持し大きな波風が立たないままほぼ鎮静化していた。
二国間あるいは中国とASEAN(ベトナム、フィリピン、マレーシアも加入)との間で種々の話し合いがもたれるようになった。そして、ASEANと中国は、2002年領有権紛争を平和的手段での解決をめざすことなどをうたった「南シナ海における関係国の行動宣言」(DOC)に合意し調印した。
その後、両者はさらにこの行動宣言を具体化するものとして、あらたな占拠活動はせず(武力行使をせずに)現状を固定化することなどをメインとするさらに一歩進んだ条約づくり(行動規範)に向けて話し合いを重ねていた。
すなわち、中国にとっては、自国の大国化がアメリカ、日本などとの競争を深刻にし対立にまでいたることが予想されるなか、近隣国としてこれまた力をつけてきたASEANとの友好関係を継続することが安定した経済的成長のためにはもとより安全保障上も重要となってきたこと。
またベトナム、フィリピン、マレーシアにとっても、大国化する中国を恐れる気持ちとともに、中国と良好な関係を築くことが自国だけでなく地域の成長発展にとっても不可欠であるとの共通の認識に生まれてきたこと、こうした背景事情が指摘できよう。
10 ところが、21世紀に入ってからの中国の経済成長はさらに著しく、先進資本国が驚きとともに競争相手として警戒を強めるようになっていたとき、2014年ころ中国が南シナ海に占拠していた島しょの埋め立てを加速し、ついに軍事的意味をもつ3000メートル級の滑走路を次々と築造していることが明らかとなった。このことが東アジアに影響力を持つアメリカをひどく刺激し、中国の覇権主義的行動として世界に喧伝されるようになった。
中国による南シナ海島しょの大きな現状変更は、平和的話し合いを進めようとしていたベトナム、フィリピンにも少なくない衝撃を与えたと思われるが、このことは南シナ海紛争がもたらした米中対立の実相をみた後にもう一度検討してみたい。(明日につづく 3/6)