南シナ海・領有権争いと米中パワー対立(2)
6 中国の占拠過程においては、1988年にサウスジョンソン礁(中国名・赤瓜礁)をめぐってここを実効支配していたベトナム軍との間で武力衝突が起り、中国はこれを制して占拠した。ベトナムに兵士約30人の死者がでた。その後も中国は、フィリピンが実効支配していたミスチーフ礁を占拠した(その方法がフィリピン軍の監視のすきをみて構造物を建造したため一騒ぎがあった)ほか、全部で7つの礁を実効支配するに至った。
7 サウスジョンソン礁における武力衝突など中国の占拠過程については、他国が先に実効支配していた島しょを無法に「奪った」ものと非難する向きが多い。だが、対象の各礁部分はもともと相手国の主権が及ぶ領土ではない係争地域なので、客観的には中国の武力行使を侵略行動(主権侵害)とみるべきではない。
実効支配とは、領有権争いのある地域を一方の国が相手国の承認を得ないまま、軍隊を置くなどして実質的に統治している状態といわれる。国境紛争と同じに考えていい。一方の国がその紛争地内の要衝陣地を確保していても相手国から奪いかえされることは予想される事態であり、そこに武力が用いられたとしても、占領そのものが武力を背景とする性格であることからすると、攻撃された側が相手を非難できるものではない。領土紛争においては国際法上も、特段の事情のない限り先に実効支配した側に「奪われない権利」までは保障していない。係争地をめぐる双方の権利はフィフティフィフティというべきか。ベトナム、フィリピンが武力を用いず先に占拠できたのは他の国が武力で妨害しなかったというだけのことである。ベトナム、フィリピンに先に占拠した島しょが武力で奪われることを妨げる特段の事情はなかった。
(非難はせいぜい「中国は大国なのだから弱小国に譲ってやれよ」というくらいではないのか。それに対して中国は反論するだろう。「こちらは本体の島ではなくちっぽけな礁に的を絞った控え目な占拠行動だった。それでも相手国の占拠数とくらべてまだ相当に少ない」と)。(明日につづく 2/6)