南シナ海・領有権争いと米中パワー対立(4)
米中パワー対立
南シナ海問題についても、アメリカは2000年ころまでは単なる領土紛争とみて、特にどちらにも味方しないスタンスであった。ところが、中国の経済的台頭が著しくなるにつれて警戒感が高まるなか、2014年ころからの中国による巨大な3本の滑走路建造は、南シナ海の島しょ占拠のもつ軍事的意味合いを鮮明にさせ、アメリカの中国非難は一気に高まった。日本を含めた西側世界のマスコミ・世論も、南シナ海における中国の行動がいよいよ牙をむきだした覇権行動の第一歩であるかのような非難の目を向けるようになった。
だが、いささか誇張があるように思われてならない。
滑走路はたしかに軍事目的であろう。しかし、カリブ海に造ったわけではなく、ハワイ沖の島を造成したわけでさえない。南シナ海の滑走路はアメリカ本土に戦闘機を向けるにしては遠すぎる。また前記のとおりASEAN諸国を脅すために造る必要も考えにくい。
そうすると、軍事施設たる滑走路は、中国がアメリカなどの他国に狙いを定めるためではなく、自国防衛の一環として造ったものと考えるのがまっとうな見方ではないだろうか。アメリカの中国封じ込め政策に対する防御である。南シナ海をわがもの顔で走行するアメリカ艦船に対しては防御・偵察のために相当に効果があろう。中国を標的にするグァム島の米軍基地に対してもいくらかのにらみを効かすことになるかもしれない。
自己防衛的な色彩の濃い行動にもかかわらず、中国の南シナ海進出は、他国への支配力影響力を及ぼす覇権行動の代表例であるかのように喧伝されている。南シナ海に進出してむしろ多数の島を占拠し、そこに同じく軍事施設を造っているベトナムやフィリピンが非難されることは決してない。中国に悪意をもつ誰かがためにする見方を広めたのではないだろうか。世のマスコミが、現地取材しにくい海域での出来事についてアメリカやベトナム、フィリピンなどの一方的な情報だけを集めて世論形成していることも原因していると思われてならない。(明日につづく 4/6)