台湾問題・柳澤氏らの提言をめぐって(3)
台湾への中国の武力侵攻はあるのか
しかし、中国は台湾に関しては、将来とも「二制度」を維持することを何度も明確に表明している。台湾自身は1949年の蒋介石政権から、社会主義的統治とは別の制度のもとでその政治経済を発展させてきた。独裁的傾向のあった政治制度もここ数十年のうちに選挙制度、議会制度を備えた民主主義政体を自らの手で実現しこれを成功裏に発展させてきた。民主主義は台湾の国民の間に根付いていると言って間違いない。
このようにすでに民主主義が成熟している台湾社会に、中国流の社会主義的統治原理(たとえば言論統制)を持ち込んでも、これが成功するとはとうてい思えない。
台湾の人民自身がこれを受け付けず、これによってもたらされる社会的混乱は香港の比ではあるまい。中国はバカではない。中国指導者が「政治体制を他国に強制することはない」とかねがね明言しているのは、イデオロギーの他国への「輸出」の困難さと「得るもの」の小さいことが分かっているからである(香港の場合は、すでに中国の統治が一部及んでいる政体にさらに部分的な制約を加えたもので、そこにおける混乱を限定的とみたからであろう)。
中国が当面、台湾の民主主義すなわち「二制度」の全面的あるいは部分的撤回を意図していると考える根拠はない。柳澤協二さんも別の機会に次のように述べている(「通販生活」2021年盛夏号109頁)。
「香港と違い、台湾には陸海空併せて16万人の兵力があるので、中国が占領するのは簡単ではありません。仮に占領できたとしても市民の抵抗は続き、逆に「台湾独立」の機運が盛り上がることにもなりかねない。ですから、中国もそう簡単に台湾には侵攻しないだろうと考えるのが妥当です」。ただ「米国が台湾独立を後押しするような動きをすれば中国も動かざるをえなくなります」。
この発言は、中国は台湾が米国の支援の下で独立に動き出そうする場合には武力侵攻もありうるであろうが、そうでないときに自らの統一願望を達成するために、台湾へ武力侵攻に出る懸念のないことを言っているのである。私もそうだと思う。
台湾は、独立のために米国などとの連携に動かない限り、「一国二制度」のもとで、内政に関しては中国に遠慮なく最大限に豊かで自由な社会を作っていけるのである。
柳澤氏らの提言は、最後に「価値観」に基づくブロック化の危険性と日中の対話の重要性を述べている。どちらも大事な点である。本日の新聞は、バイデン大統領が9、10日に「民主主義サミット」をオンラインで開催し、日本や台湾などを招待すると報道している!キナ臭さを心配するのは隠居老人だけであろうか。また項を改めて考えてみたい。 (了 3/3)
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