台湾問題・柳澤氏らの提言をめぐって(1)
延期されている中国との首脳会談の実現も
柳澤協二さんは、元防衛庁事務畑の幹部を勤めたあと、内閣官房副長官補という政府の要職を経て、現在は「自衛隊を生かす会」の中心メンバーでもある。隠居老人は彼の講演を何回か聞いている。穏やかな中に一本筋の通った見識にかねがね敬意を抱いてきた。
その柳澤さんが「ND」というシンクタンクで、他数名とともにこの10月、台湾問題についての政策提言をした。副題として「戦争という愚かな選択をしないために」とある。台湾について考えを巡らしている折、私はその提言を丁寧に読んだ。そして、強い共感を覚えるとともに、この問題につき考え方を一歩深めることができたような気がしている。
まずその提言を、私流のことばも交えて思い切って要約してみる。大意はずれていないと思う。
1(課題)
台湾問題が緊張を高めている折、「米中の戦争をいかに回避するか」が台湾、日本を含むすべての関係者の最大の課題である。
2(自制の重要性)
米中そして台湾の「挑発と軍備増強の悪循環」が戦争の危機(誤算や錯誤による衝突を含め)を招いている。戦争を回避するために、なによりも米中の双方に政治的・軍事的自制が求められる。
3(対立の根源)
台湾危機の根源には、一方に台湾の独立志向(アメリカが支援)、他方に中国の統一願望という真逆の目標がある。
相対立するこの目標に折り合いの余地がないのは、中国が台湾を「核心的利益」とし、いかなる犠牲を払おうとも(戦争に訴えても)台湾をわが「一国」にとどめおくという強固な国家意思を明確にしているからである。
4(方針)
このような状況のもとで、これまで米中が戦争に至らなかったのは、両者が(特に米国が)「一つの中国」の認識と「台湾独立不支持」の方針をかろうじて維持してきたからである。
したがって、今後とも当面、戦争を回避するためには、米中がこの認識と方針を再確認し、その一線を越えることのないようにすべきである。将来、状況が変わって、台湾が独立しようとしても、中国が「武力を行使」しない方針に変化するまでは。
5(日本の役割)
米バイデン政権は、中国との関係を「専制主義と民主主義の競争」とみて、日本など同盟国に結束を呼び掛けている。こうした単純化した対立構造で中国をみると、民主主義の同盟国は「専制主義の悪者」中国を相手に損失を与えることをいとわず、さらに懲らしめることをもやむなしとする思考の生じてくることは必至である。共存協調の精神は遠のき、戦争につながりかねない。
日本は、米国主導のこのような「価値観をめぐる競争」に加わることなく、アメリカ、中国のどちらに対しても「信頼できる」友人・隣人の立場を堅持したうえで、戦争につながりかねない主張や政策に「自制」を求め、そうした身勝手が「その国のためにならないこと」を息長く説得する努力を怠ってはならない。延期されている中国との首脳会談を早急に実現すべきである。(明日につづく 1/3)
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