台湾問題を歴史から考える(5)

   山口氏も佐橋教授と同様に「米国は台湾を重要なパートナーとして重視するようになっている」とみている(山口10頁)。

(米中国交正常化の時代には台湾を切り捨て、半導体の時代となると手のひらを反すように取り戻そうとする。「独立支援」をにしきの御旗に ― 老人のつぶやき)。

そうしたアメリカの対応に自信を深めたかのように、台湾政府は「独立は求めない」と言いながら、アメリカからの軍事援助を大っぴらに増大させるのみならず、TPPに加入申請をしたり、EU首脳らと会合したり、アメリカ議会議員を台湾に招待して話し合うなど、自らをアメリカ・西欧に向けて積極的にアピールしている。これを「独立志向」というなら、その動きは以前とは比べものにならないほどに大きくなっている。経済界の一部躊躇にもかかわらず「それでも、台湾はアメリカとの関係強化に踏み切っている」(佐橋239頁)のである。

台湾の最近の行動は、中国側からみると、アメリカと台湾の共謀による「準独立」策動と映る。これを「一つの中国」に反する、内政に干渉していると非難する。また、分断化する世界にあって、対峙するアメリカ陣営(すなわち「相手」陣営)に台湾を「奪われる」危機感を抱いているにちがいない。

中国は当然ながら、米台のこうした攻勢に対処しようとしている。佐橋教授は、アメリカが台湾をめぐり軍事面で防御的な意図から行動したとしても「中国がそのように受け取るとは限らない。習近平政権は過去数年にわたり台湾の平和的統一に向けた可能性が遠のいているとの焦りを深めてきたのであり、アメリカの出方に敏感な反応を見せている」とみている(253頁)。

台湾をめぐる米中の対立は、今や「独立」という形式性を超え、米中の台湾「取り込み合戦」とみた方がその実質に近いと思われる。「独立」の達成は米国にとり合戦の勝利を意味することになろう。

  わが国のマスコミはいつも「台湾に軍事的圧力をかける中国に対し、米国は台湾寄りの立場を強め、菅政権はそんな米国と歩調を合わせた」(朝日 21.11.12)というふうに「中国の攻勢、米国の防御」といわんばかりの論調である。隠居老人はかねがね「それは違うのではないか」との疑問を抱いてきた。

いずれにせよ、台湾をめぐる米中の確執は、かつては、中国においては民族感情の発露として、アメリカにおいては自由主義世界のリーダーたる信頼、面目を守るといった、いわば情緒面に大きな比重があった。だが今は、加えて現実的実利(台湾の経済力、安全保障上の要衝地)獲得も目標になっている。それだけに、台湾をめぐる米中両パワーの対立は深刻さを増しているといえる。

渦中にある台湾の人々は、米中正常化の交渉過程で疎外されたばかりでなく、今もその思い願いが片隅に追いやられている。そこでは、ヒューマニズムがパワーポリティックスに踏みにじられている、といえるかもしれない。

この点を憤るわが友人はまっとうである。(了 5/5  次はしばらく先に別のテーマで)

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