台湾問題を歴史から考える(4)

 3 米中対立期(2015年ころ~)

 比較的安定的にみえていた米中の関係も、中国の著しい経済成長による軍事面を含む大国化、いわゆる中国の台頭は、世界のリーダーを自認しているアメリカにとってその指導的地位を脅かすものと映るようになった。特にトランプ政権になってからの両国間は、経済はもとより政治、軍事においても摩擦が絶えないものとなっている。台湾もその経済的成長が著しく、グローバル経済の中で存在感を高めるようになり、独立を求める台湾国内の世論の高まりも加わって、台湾の独立志向が米中間に最大の危機をもたらしている。 

 台湾の経済力の大きさ技術水準の高さを示すものとして半導体生産がある。半導体は、AIや5Gなどの先端技術のみならず、あらゆる産業に用いられる電子機器や装置の頭脳部分としてその中心的役割を果たすもので、現代社会の運営には欠かせない。台湾の半導体の生産技術の高さと生産量は世界のトップクラスであり、世界の産業はいまや台湾の生産する半導体に左右されかねないものだという。この点の見方はアメリカも中国も同じであり、手っ取り早くいえば、台湾を手中におさめた方が産業経済分野で大きな優位に立てるとまで考えている。

  このあたりについて、佐橋教授は「米中対立」の本で、「最先端の半導体生産拠点として台湾経済は飛躍したが、半導体の供給が寸断されればアメリカを含めた世界経済のチョークポイント(物事の進行を左右する重要な部分 ― 老人)になるとの主張も目にみえて増えた。バイデン政権の「国家安全保障戦略指針」(暫定版)も、台湾を死活的な経済パートナーと表現している」と書いている(252頁)。

さらに、防衛研究所主任研究官の山口信治氏はもっと露骨に、「米国は中国との貿易・技術戦争を進める上で、重要技術を持つ台湾を中国から切り離し、日米欧など価値を共有する国家との関係を促進しようとしている」とまでいうのである(「東亜」2020年10月号11頁)。

 この動きを台湾自身はどう受け止めているのか。具体的な変化の一例として「2020年5月世界最大のシェアをもつ台湾の半導体メーカーTSMCが、米国の規制に基づいて中国のファーウェイへの半導体受注生産を停止するとともに、米国内に回路線幅7ナノのチップ(半導体の中でも最先端技術を要するもの)を製造する新工場を建設することを発表した」という(山口12頁)。

このような変化を佐橋教授は、「旧来のパターンと異なり、アメリカの台湾への積極姿勢が米中台関係のなかで際立つようになった。これまでは現状を変えようとする中国や台湾の動きに対して、アメリカが現状維持を強く求める形で両者の抑制や抑止を図ってきた。今や、アメリカが関係性を変えようと動くことが多く、それは台湾ですら時に躊躇する動きをみせるほどであった」と特徴づけている(239頁)。(明日につづく  4/5)

 



 

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