(台湾有事)国会は自衛隊の参戦を安易に「承認」してはいけない!

   安倍元首相が一昨年暮れに「台湾有事は日本の有事」と叫んだ時から、わが国の「防衛論議」は一段と危険なものとなった。岸田政権は「中国の脅威」を口実にミサイル防衛をはじめとする大軍拡路線を打ち出し、石垣島、宮古島などの琉球諸島では自衛隊のミサイル基地整備が一気に進み、日米の軍事共同訓練は重ねられ、住民避難の具体的方法まで現実化してきた。 

  戦争前夜を思わせるこうした動きに老生の心配はつきない。
  そのなかで、老生にずっとつきまとってきた疑問がある。
    なぜ台湾有事は日本の有事なの? 日本有事にさせない議論をどうしてしないの?

 安倍元首相の上記発言のあと、麻生元副総理が昨年の夏
台湾でドンパチが始まることになれば、沖縄の与那国島などの地域も戦闘区域外とは言い切れないほどの状況になり、戦争が起きる可能性は十分に考えられる」と発言した。
中国と台湾とが軍事紛争になれば、なぜ近くの日本の島々が戦争の舞台になるの?

火事の場合は火の粉が飛んで近隣も火事となることはある。しかし、戦争は火事とは違う。中国が日本と戦争しようとする意思がないかぎり、または日本が戦争に参加しようとする意思がないかぎり、両国の間に戦争は起こらないはずだ。
少なくとも現時点では、日本と中国はどちらも相手と直接に戦争しようとは考えていない(台湾有事は中台間に紛争があって生起される問題である。中国は、近隣の国たとえば日本が台湾の側に加わり、その国とも戦争することになれば、台湾攻撃に集中できず、敗北するかもしれない。中国は日本が参戦してくることを避けたいはずである。ウクライナ戦争でロシアがポーランドなど近隣諸国に手を出さないのは当然のことである。中国も台湾を攻撃する時、ついでに日本など近隣の諸国に手を出す必要などまったくない。24.3.27加筆)。さすがに安倍元首相らもこの戦争意思を持ち出すことができなかった。ただ、戦争準備だけはしておきたい、そのために「近隣の戦争」があたかも「近隣の火事」と同じであるかのごとく漠然とした話しで戦争危機をあおっているのである。この「あおり」は成功した感がある。安保三文書の大軍拡路線はさほどの反対を受けないまま既成事実化しようとしているのだ。

「台湾有事」なったとき、日本が参戦意思をいだく危険性はある。ここ数年の政府の「安全保障」に関する諸言動は、台湾有事に日本が参戦することを前提とするかのようである。

台湾有事に日本が参戦するのにはいくつかのシナリオがあろうが、主なものは、以下の三つであろう。
シナリオ1 台湾有事が発生したとき、米軍が日本の基地から、戦闘機やミサイルで中国軍を攻撃する、中国がその日本の基地に反撃を加える。日本領土が攻撃されたことを理由に、内閣総理大臣は自衛隊に自衛隊法76条(注1)1項一号の出動命令を出し参戦する。

シナリオ2 台湾有事となったとき、台湾海峡の近辺の米艦等が出撃し、中国軍と交戦となる。そのとき、米国政府は日本に支援要請をする。日本政府は、日本の「存立危機」になったと判断して、内閣総理大臣が法76条1項二号の集団的自衛権を発動して、自衛隊に出動を命じる。

シナリオ3 日本の自衛艦が台湾近海で米軍の後方支援活動をしているとき、中国軍に攻撃を受けた。これを機会に内閣総理大臣が法76条1項一号の防衛出動を命じる。
(安倍元首相お気に入りの一連の「切れ目のない」防衛戦略!)

日本の戦争参加はこのように自衛隊法76条による内閣総理大臣の自衛隊出動命令によって行われる。ただし、この出動命令には国会の承認が必要とされている(赤字部分)。自衛隊出動は戦争開始(いわば宣戦布告)を意味するので、そのような国家の命運を左右する重大時に「国権の最高機関」(憲法41条)である国会の承認が必要となることは当然のことであり、自衛隊法はその当然のことを規定している。

そうだとすると、国民の信託を受けた国会は、内閣総理大臣の自衛隊出動命令(参戦決定)が適切なものかどうかを慎重に審議したうえで承認か不承認かを決めなければならない。「国の総理が決めたものだから信頼して承認しよう」などと安易に考えては国会の責任は果たせない。

上記のシナリオで考えるなら、1や3の場合は、自国への攻撃が現にあったという場合であるから、特段の事情がない限り、国会は承認せざるを得ないといえるかもしれない(注2)。

シナリオ2の場合は、法76条1項二号に「これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態という厳格な要件(存立危機要件)が定められているので、その要件に該当する事態かどうかの判断は慎重かつ厳正に行われなくてはならない。国民はかたずをのんで国会を見守ることになろう。おざなりの審議で「承認」決議が許されるはずはない。

そのような性格の国会審議であるにもかかわらず、「台湾有事は日本の有事」が言われだしてから、さまざまな議論が国会、マスコミ、市民の間でなされてきたのに、なぜか、
・台湾有事が果たして法76条1項二号の厳格要件に該当するのか、
・内閣総理大臣はそれをどのような事情から判断するのか、
・内閣総理大臣が自衛隊出動を決断した場合、国会はどのような審議で承認、不承認を決するのか、
について、ほとんど議論がなされていない。このままでは、日本は戦争に参加したくてたまらない政府タカ派の意向に従って、国会では形ばかりの審議で「承認」を済ませ、易々と参戦の道(日本有事)を歩むことになるのではないだろうか。

老生は心配でたまらない。
そんなことでは、死地に赴く自衛隊員も、中国のミサイル等の標的とされる国民も、黙っておれないはずだ。

 そもそも、台湾と中国との間で軍事的衝突が始まり、台湾に米軍が加担するという台湾有事が生じたとして、それがどうして日本の存立危機となるのか、どうして日本国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態となるのか、国民には理解しがたいところなのである。

 与野党を問わず平和を願う国会議員は、本腰を入れ、この重大審議に備えて今から準備をしてもらいたい。特に、内閣総理大臣に対しては、「台湾有事の場合どのような事態となれば、わが国の『存立危機』に該当すると考えているのか、できるだけ具体的に例示していただきたい」と今から問いただしておき、本番審理の充実に備えることが大事ではないだろうか。主権者たる国民に責任を果たすべき歴史的な国会審議となるのである。

  これに対して、内閣総理大臣は準備討議においても本番討議においても、「仮定の問題には答えられない」とか「敵に手の内を明かすようなことはできない」などとして、反戦機運を呼び起こしそうな答弁を避け、討議から逃げようとするかもしれない。しかし、戦争に突入するかどうかの重大事項につき判断根拠を国民に示さないままで決められてはたまらない。そのような逃げの答弁を国会は、そして国民も許してはならない。

注1) 自衛隊法  第六章 自衛隊の行動
(防衛出動)
第七十六条 内閣総理大臣は、次に掲げる事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。この場合においては、武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(平成十五年法律第七十九号)第九条の定めるところにより、国会の承認を得なければならない
 我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は我が国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至つた事態
 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態
(2項略) 

 (注2) シナリオ1も3も、中国から攻撃させない方法はある。1については、当ブログでもとりあげたが(ここ)、いずれまたあらためて考えてみたい。 

コメント

このブログの人気の投稿

中国に関する冷静な観察 良心的ジャーナリストから学ぶ

「中国のルソー」と呼ばれた17世紀の儒者・黄宗羲 (こうそうぎ)