「中国と対話を」再び訴える

 (大軍拡反対に迫力の乏しさ)
  今国会も会期を終えた。
  安保3文書に対する国会の野党の追及も、空振りとはいわないが、大きなファール2、3本で終わってしまった。敵基地攻撃能力の危険性、専守防衛の逸脱、憲法9条違反、大軍拡・増税といった攻め道具も、政府を追い詰めるまでにはいかず、国民に大きな怒りを呼び起こすことができなかった。市民運動もいま一つ盛り上がりを欠いた。
  日本は、中国はもとより外国の領土へミサイルを撃ち込むことを、専守防衛の観点からできないとしてきた。それを「できる」と変えたのが、今回の大軍拡である。日本に対して安心の目で見ていた中国が、方針を変えた日本に対し、警戒と反撃の気持ちを高めたことはいうまでもない。日中衝突の危険性は増した。 

(「中国脅威論」)
大軍拡方針の危うさは誰が考えても明らかである。にもかかわらず、国民の間に大きな反対機運が盛り上がらなかったのには、無理からぬ理由があった。「中国の脅威」である。中国が「攻めてくる」かもしれないので、日本がミサイルで反撃するのもやむを得ないではないか、そういった気分が国民の相当広い範囲にあって、大軍拡方針はまかり通ろうとしているのだ。残念ながら、「中国脅威論」は国会野党の一部にも影響を与えており、それが日米同盟に惑わされる姿勢とあいまって、政府追及に迫力を欠かせた原因ではないか思われる。
「中国脅威論」は間違っている。このブログでくり返し書いてきた。
尖閣問題について中国は話し合い解決がその方針である。台湾問題は中国の内政問題であって、アメリカや日本が余計な手出しをしない限り、日米を攻撃するはずがない、南シナ海の島々の領有権問題も関係諸国と話し合いで「ウイン・ウイン」の解決を目指している。中国はそのように主張しており、老生はこれが中国の真意だと思う。 

(覇権的行動に出る余裕はない)
中国は14億もの民を抱えており、その巨万の民を統治するだけで精一杯である。その国内は、うわべこそ高度経済成長により矛盾が抑えられているものの、底辺では貧富の差や官僚支配への反発を抱え、民族政策に対する不満から反抗の動きもあり、インテリ層には外国からの刺激をうけた「民主化」への根強い要求もある。内政の課題はつきない。中国共産党指導部は、こうした難題を解決し国内統治に成功しないでは、自らの独裁支配に人民の支持が得られないことが分かっている。そのためには外患の憂いをなくして国内統治に専心したい。よその国に支配的影響を与える覇権主義的行動にでる余裕など中国にはない、と老生は思う。
遠い将来まで中国に覇権主義は生れない、とまで言い切ることはできないが(長年他国に関わらないモンロー主義であったアメリカも、ここ100年のあいだに覇権主義国家になった!)、少なくとも、現在問題となっている東アジアでの諸紛争や、他地域での経済的軋轢を覇権主義的行動とみる「中国脅威論」は根拠が乏しく、悪意からくる政治宣伝だと思う。
しかしながら、「中国脅威論」を疑問視する老生のような意見は、残念ながら、わが国では少数意見である。多数意見は、中国は覇権主義の国であり脅威であるから、軍事的にも警戒の態勢をとり、攻撃の及んでくることを抑止しなければならない、大軍拡路線はやむを得ない、となりがちである。
 
(対話の重要性)
大軍拡路線に賛成するかどうかの立場を超えて、日本と中国との険悪な関係を解決する方法として日中間の対話を求める声がある。軍事的対応はあとまわしにし、対話により緊張緩和の道をさぐるべきだとの声は、保守の一部も含む広い範囲の賛同を得ている。老生も諸手を挙げて賛成である。
  最近、著名なジャーリストが、自民党の二階元幹事長、立憲民主党の小澤一郎氏、共産党の志位委員長の三人が訪中して中国の指導部と対話してはどうか、と提案した。三人の組み合わせが面白い。保守、中道、革新の代表でもあり、中国からみて本音で真剣に話ができる人たちにちがいない。こんな人たちが国民の多くが抱く「中国脅威論」の根拠についてさまざまな疑いを投げかければ、中国側も率直に答えてくれるはずだ。そこに「中国脅威論」解消ないし縮小の糸口がみえるかもしれない。その率直な対話の様子がわが国民に伝われば、不信まみれの中国観に変化が生まれるかもしれない。もちろん、日本は決して再び「日中戦争」を起こそうなどとは考えていない、その気持ちも中国に伝えたい。そうした対話の積み重ねが、相互理解を深め、双方の信頼形成につながっていく、そうした努力以外に方法はない。
頑迷な保守タカ派が、中国との対話外交に腰の重いのは、自分たちの抱いている、あるいは国民に宣伝している「中国脅威論」が、実は根拠に乏しいことを中国側から指摘され、それを国民に伝えなければならないことを恐れているからではないのか。保守タカ派は、「中国脅威論」があってこそ、日本の軍事力の強化、軍拡路線を突っ走ることができる、そう信じて「頼りの杖」としているのである。
アメリカのブリンケン国務長官が訪中した。なにがしかの緊張緩和を求める努力であろう。アメリカでさえこうした努力をしているのだから、という言い方はしたくない。自主独立の日本は、アメリカがどういう外交姿勢をとろうと関係なく、日中の平和、協調関係構築のために、独自に対話外交に乗り出してほしい。

 

 

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